少し前のニュースになりますが、フランスのマクロン大統領の支持率が急落しているようです(参照:ロイター)。
39歳という若さ、甘いマスク、冷静且つ巧みな弁舌を武器に選挙を戦い、得票率66%という大差で大統領に就任したマクロン氏。
日本のマスコミでも特にトランプ大統領と比較し、対照的に持ち上げるような報道が目立ちました。
そんなマクロン大統領が、まだ就任して半年も経たないうちになぜフランス国内での支持率を急落させたのか、その理由について確認してみたいと思います。
大統領選挙の流れ
まずはマクロン大統領が誕生した5月の選挙をもう一度確認してみましょう。
これまでフランスでは共和党と社会党という2大政党のいずれかによって政治が行われてきました。
しかし、今回の選挙ではこの2大政党に加え右派の国民戦線代表ルペン氏、左派のメランション氏、リベラルのマクロン氏の5人がほぼ横並びになる接戦となりました。
第1回投票ではマクロン氏が23.7%、ルペン氏が21.5%の得票率で決選投票へと進みました。
続く決選投票では、第1回投票で敗北した共和党と社会党の支持者の多くがマクロン氏に投票したと見られ、得票率66%という大差で大統領就任が決まりました。
マクロン大統領誕生の背景
マクロン大統領が誕生した最大の要因はフランス国民がこれまでの2大政党政治を拒絶したということです。
多くのフランス国民は長引く経済の低迷、高い失業率、治安の悪化をもたらしたこれまでの2大政党による政治にNOを突きつけたのです。
さらにマクロン氏は決選投票において、ルペン氏には投票したくないと考える層からの票を集めることに成功し、大統領選に勝利しました。
要するに多くのフランス国民は積極的にマクロン氏を支持したわけではなく、これまでの既成政党への拒絶と極右とも言われたルペン氏への拒否反応によってマクロン大統領が誕生したと言えます。
マクロン大統領の政策
ではマクロン大統領の主な政策を見てみましょう。
①政府支出の削減
②公務員の大幅な削減
③法人税減税
④労働規制の緩和
⑤移民受け入れ継続
他にも細かいものはありますが、上記の5点が主な政策と言って問題ないでしょう。
順番に詳しく見ていきます。
①の政府支出の削減と聞くと、「政府もちゃんと節約してエライ!」と感じる方もいるかもしれませんが、そういう話ではありません。
どういう事かと言うと、要するに
「政府が国民のために使うべきお金を減らしていきますよ~」という政策です。
この政策によって公共サービスが低下します。
例えばこれまで無料や格安で利用できた公共の施設やサービスが減らされるので、国民生活の利便性が低下することになります。
国民にとってはこれまでと同じように税金を払っているのに、サービスの質と量が低下するということです。
また日本やフランスのように景気が悪い状況では、個人も企業もお金を使いません。
そんな時に政府までもが使うお金を減らしてしまえば、さらに消費が低迷し、より景気が悪化します。
景気が悪化すれば当然ですが、税収も減る可能性が高くなります。
これが政府支出の削減です。
②の公務員の大幅削減ですが、そもそも公務員を雇うということは安定した多くの雇用を確保するということになります。
そのような公務員を大幅に削減するということは、失業率が高まります。
失業率が高まれば消費が低迷し、景気の悪化に繋がります。
これが公務員の大幅削減です。
③の法人税減税はそのままですね。
企業の利益に対して課税される法人税の税率を引き下げるということです。
たくさんの利益を上げている企業にとっては、税が軽減されるので大きなメリットとなります。
④の労働規制の緩和にはいろいろとありますが、マクロン政権の労働規制緩和は主に企業が従業員を解雇しやすくするということです。
要は会社が社員を簡単にクビにできるようになる政策です。
これも当然、失業率の上昇に繋がります。
さらにこの労働規制の緩和は次に説明する⑤の移民受け入れと密接にリンクしているので、この2つはセットで考える必要があります。
本来であれば、従業員を解雇すれば人手不足になるのでまた別の従業員を雇わなくてはなりません。
しかし⑤の移民の受け入れを継続することで、職を求める大量の移民が入って来るので企業としては低賃金で働いてくれる従業員を簡単に雇うことが出来ます。
解雇された従業員の不満は高まりますが、企業にとっては安い労働力を大量に確保できるので大きなメリットとなります。
また経済分野以外では異なる価値観、宗教、文化などを持つ移民を大量に受け入れるので大きな混乱や反発を生み、経済格差や治安の悪化など社会の不安定化に繋がります。
このあたりのことに関しては、今のヨーロッパの現実を見ればここで説明する必要もないでしょう。
以上がマクロン大統領の主な政策です。
まとめると・・・
政府が国民のために使うべきお金を減らすことで公共サービスを低下させ、
公務員削減や労働規制緩和によって、失業率を高めて景気悪化の危険性を増大させ、
法人税減税によって大企業を優遇し、
移民受け入れによって、企業が低賃金の労働力を簡単に雇えるようにする、
ということになります。
支持率急落の理由
肝心の支持率急落の理由ですが、ここまで読んでいただければ何となくわかるかと思います。
最初のほうで述べたように、フランス国民は経済の低迷、高い失業率、治安の悪化を招いたこれまでの2大政党に対してNOを突きつけたわけです。
しかしこれまで説明したように、マクロン大統領の政策をみると大企業にとってはメリットがありますが、一般のフランス国民にとっては経済の低迷、失業率の上昇、治安の悪化を招く可能性が非常に高くなります。
結局は今までの2大政党による政治と同じような事になるということです。
これもある意味当然のことで、実はマクロン大統領は前政権のオランド大統領の下で経済相として経済政策を行っていました。
前政権の中枢で経済政策を担当していたのがマクロン大統領なので、これまでと同じような政策になってしまうのは無理もない事ではあります。
しかしフランス国民はこれまでのような政策は望んでいないので、不満が高まりマクロン大統領の支持率が急落しているというわけです。
中でも公務員の削減と労働規制の緩和に対する反発は激しく、多数の抗議集会やデモが行われています。
まとめ
マクロン大統領の支持率低下はある意味当然の流れと言えます。
フランス国民が望む経済の再生、失業率の低下、治安の改善にはマクロン大統領が主張してきた政策ではなく、ルペン氏が主張してきた政策が効果的だからです。
むしろ景気低迷が続く現在のフランスにおいてマクロン大統領の政策を実行すれば、より状況は悪化すると個人的には思います。
しかしフランス国民は、極右とも言われた国民戦線へのアレルギーからマクロン大統領を選びました。
この先マクロン大統領が大きな政策転換でもしない限り、これからも支持率は低迷を続けるのではないかと思います。
現在のフランスでは急進左派のメランション氏の発言力が高まっているようです。
以前の記事でも書きましたが、メランション氏はルペン氏とはイデオロギーは真逆ですが政策は非常に似通っています。
彼らの唱える政策は、マクロン政権に失望したフランス国民に強い影響を与えるでしょう。
ルペン氏もメランション氏も政治的スタンスは反EU、反グローバリズムです。
オーストリアの下院選では反移民勢力が躍進し、ドイツではメルケル首相率いる与党が大幅に議席を減らす一方でこちらも反移民の右派政党AfD(ドイツのための選択肢)が躍進、そしてチェコの下院選でも反移民政党が大勝しました。
マクロン政権の誕生によってグローバリズムvs反グローバリズムは沈静化するかと思われましたが、やはり収まる気配はありません。
行き過ぎたグローバリズムによって生み出されたヨーロッパの混乱は、まだまだ続くようです。