6月14日、事前の予想通りFRBが利上げを実施しました。
利上げについてはすでに織り込まれていたので特に大きなインパクトはありませんでしたが、注目すべきはFRBがバランスシートを縮小する方針を明らかにしたことです(参照:ロイター)。
僕の勉強不足もあり、中央銀行がバランスシートを縮小するということがどういうことなのか、いまいちピンとこなかったので自分なりにいろいろと調べてみました。
調べてみた結果は、一言で言うとかなりの衝撃でした!
今回はFRBのバランスシート縮小について書いてみたいと思います。
FRBのバランスシート縮小とは
正直言って僕も覚えたてなので、このブログお得意の「全体像をざっくり理解」方式でいきたいと思います(笑)。
別に専門家じゃないですし、どういうことなのか概念が理解できていればそれで十分ですので。
FRBのバランスシート縮小とはざっくりと言うと、FRBが現在保有している国債等の資産を減らすということです。
リーマンショック以降、FRBは国債などを大量に買い入れることによって市場に資金を供給してきました(量的緩和)。
この量的緩和はすでに終了しており、新たな国債の買い入れは行っていなかったんですが、償還期限がきたものについてはもう一度買い入れることで保有する資産を一定に保っていました。
このような保有資産を一定に保つための買い入れをやめて、減らしていくというのがバランスシートの縮小です。要するに新たな金融引き締め策ですね。
これがどういう効果を及ぼすかというと、これまでの量的緩和によってバランスシートを膨張させてきたので、それを縮小するということは量的緩和の逆の効果が生まれるということです。
量的緩和とバランスシート縮小の効果を比較すると以下のようになります。
(量的緩和)
国債の買い入れによって金利が下がる(国債の価格上昇)。
↓
買い入れに使用された資金が大量に市場に流入することによりドル安になる。
↓
世の中のお金の量が増えることで消費が活発になる。
↓
消費が活発になることで企業の業績が好調になる。
↓
資金が株式市場に向かうことによって株高になる。
(バランスシート縮小)
国債等の買い入れ(再投資)の停止により金利が上がる(国債の価格下落)。
↓
買い入れの停止によって市場に流入する資金が減少してドル高になる。
↓
世の中のお金の量が減ることで消費が低迷する。
↓
消費の低迷で企業の業績が悪化する。
↓
株式市場に向かう資金が減少して株安になる。
もちろん様々な要素に左右されますので単純にこうなるとは言えませんが、基本的にはこのような効果を生むことになります。
バランスシート縮小の必要性
以上のような効果を及ぼす可能性があるということを前提として、なぜFRBがバランスシートの縮小をしなければならないんでしょうか?
大きな理由としては3つあります。
1つ目はバランスシートの縮小に限らず、量的緩和の停止や利上げなどの金融引き締め策全般に共通することで、景気の過熱を抑え、バブルの発生を防ぐため。
2つ目はリーマンショック後の量的緩和によって肥大したバランスシートを金融危機以前の正常な状態に戻すため。
3つ目は将来の景気低迷や金融危機が来た場合に備えて、再びバランスシートを拡大できるように十分な余地を作っておくため。
たしかに株価は史上最高値を更新していますが、現在のアメリカの実体経済ってそこまで過熱してるんですかね?
また、FRBのバランスシートの肥大は基本的には異常なことですので、いずれは正常な状態に戻す必要はあるんでしょう。しかし、このタイミングで行うということが非常に疑問です。
このような疑問に対してFRBのイェレン議長は「米国経済は引き続き力強さを増しており、雇用の伸びも底堅い」というようなことを述べています。
・・・本当にアメリカ経済は力強さを増しているんでしょうか?
さらにバランスシート縮小をすること自体が金融危機の引き金を引く可能性はないんでしょうか?
アメリカ経済の力強さは増しているのか?
アメリカ経済の現在の力強さについて最近の指標を確認してみたいと思います。
まずは以前の記事でも取り上げたコアPCE(個人消費支出)ですが、前年比+1.5%で前回よりも0.1ポイント減少しています。これは2ヶ月連続の上昇幅の減少です。
次にFOMCの直前に発表されたコアCPI(消費者物価指数)は前年比+1.7%で前回よりも0.2ポイント減少しています。これは4ヶ月連続の上昇幅の減少です。
さらに小売売上高対前月比ですが、-0.3%に減少しています。前回は+0.4%でしたが、それも含めた直近3ヶ月の結果は全て市場予想を下回っています。
以上、まずは消費や物価に関わる指標を確認してみました。それぞれの指標ともここ最近は鈍化の傾向が目立っています。
次に雇用に関する指標を確認してみましょう。
雇用統計で最も重要とされる非農業部門雇用者数変化を見ると、前月比で大幅に減少して13.8万人でした(前回は21.1万人)。これは市場予想の18.5万人からも大きく減少しています。
一方で失業率に関しては4.3%と前回よりも0.1ポイント減少しています。これは4ヶ月連続の減少で、この数値だけを見れば確かに「雇用の伸びも底堅い」と判断できるかもしれません。
現にこの数値をもって「アメリカはほぼ完全雇用の状態!」といっている人もいますし、近年を振り返ると4.3%という低い数値はリーマンショック前の2007年以来となります。
ところが、実は今のアメリカは労働参加率が低迷しています。
2007年当時の労働参加率は66%を超えていましたが、現在では最新の発表で62.7%まで減少しています。この減少幅は人数にすると約700万人にのぼると言われており、求職活動自体をあきらめてしまった人が増大したことになります。
したがって、職探しをあきらめた人達が増える中で、その人数を省いた上での失業率がいくら低下してもそれを完全雇用だというのはかなり無理があります。
以上、消費・物価・雇用の面でアメリカの現在の指標を確認してみました。
失業率自体は確かに良好ですが、これらの指標全体から読み取れるのはアメリカ経済は力強さを増しているのではなく、減速し始めている可能性が高いということです。株や不動産などの資産市場は別として、少なくとも実体経済の過熱感など全く感じられません。
さらに問題はここからで、上記のアメリカ経済の減速の兆候はこれまで数回の利上げを行ったうえでの結果です(もちろん、利上げだけが原因ではない)。
この状態からさらにバランスシートの縮小という金融引き締め策を追加するならば、リーマンショックのような金融危機が起こる危険性が非常に高まります。
なかでも特にバランスシート縮小の影響が直撃すると思われる分野が不動産です。
MBSへの再投資停止
FRBが表明したバランスシート縮小の内訳は、米国債とMBSと呼ばれる住宅ローン担保証券です。
以前からこのブログでは利上げによる住宅ローン金利の上昇によって、高騰する不動産価格が大きく下落へと転じる危険性について述べてきました。
最近の主な不動産関連指標を確認すると建設許可件数、住宅着工件数ともに減少を続けている一方で、新築住宅販売件数と中古住宅販売件数はゆるやかに増加を続けています。減少する住宅供給に比べて需要は比較的旺盛なようです。
しかし、ここでMBSの再投資を停止すると住宅ローン金利が跳ね上がり、旺盛な住宅需要も冷え込ませる恐れがあります。
そうなると、これまで過熱気味に上昇を続けてきた不動産価格が一気に下落に転じる可能性があると考えています。
これは完全に僕の個人的な感想になりますが、現状でのMBS再投資停止は、日本のバブル崩壊の決定打になった総量規制とダブって見えるんですよね。
総量規制とは日本のバブル崩壊の前に大蔵省が金融機関に対して通達した不動産融資を抑制させる行政指導です。これによって不動産市場に流入する資金が激減することになり、不動産価格が暴落していきます。
MBSも今までFRBが買い入れることによって不動産市場に資金が流入していましたが、再投資停止によって資金がストップするので、不動産価格が下落する可能性が非常に高いです。
ちなみに総量規制が実施された当時の日本も、複数回にわたる利上げの最中でした。
もちろん、総量規制とMBSの再投資停止は全くの別物ですが、不動産市場に与える影響という意味では流入する資金を激減させ、不動産価格を下落させるという同じような結果をまねく措置であると思います。
まとめ
現在のアメリカの状態を改善するには、金融政策のみでは不可能でしょう。
やはりこのブログでも何度も述べてきたとおり、財政政策を積極的に行い長期で安定した雇用を確保し、労働参加率を高め、消費を促すことで実体経済を活性化させる以外、道はないように思います。
ですので、トランプ大統領の主張していた財政政策を出来るだけ早く実行させたいところです。
僕は別にトランプ大統領が好きでも嫌いでもありませんし、アメリカ一国だけの問題ならばどうでもいいし、関心もありません。
でも残念ながら、アメリカがダメになると世界の経済に影響が及ぶんですよね。
今回のバランスシート縮小についてFRBは、あくまで今年中に実行する方針を表明しただけで、具体的にいつから実行するか正式に決定したわけではありません。
状況によっては方針を撤回する可能性も一応残されています。
今後の展開ははっきり言ってどうなるか全然わかりません(笑)。このまま強行に突き進むのか?方針を撤回するのか?やるぞ、やるぞと見せかけて事態が好転するまで様子を窺うのか?
とりあえず今のところ市場に大きな動揺は見られませんし、むしろ短期的には利上げによるドル高を好感して株価はしばらく何事もないかのように上昇するかもしれません。
そうなるとますます方針を撤回する可能性は低くなり、バランスシート縮小は現実のものとなるでしょう。
僕たちは、それに備えて覚悟だけでもしておくべきかも知れません。